2020年の中国EV販売台数はテスラ社の躍進が目立った一方で、中国新興EVメーカーも特に当該年の後半は奮闘しました。蔚来(NIO)社は2020年に約43,700台の車両を中国市場で販売し、前年比約110%の増加を示しました。同社は新型コロナウイルスの影響で一時は従業員に給料が払えない事態に陥っていると報道されたりもしましたが、結果的に2020年は大きく躍進しています。理想汽車(Li Auto)社もSUV「理想ONE」が2020年12月に月間販売台数記録を更新し、2020年のEV販売台数も約32,000台となりました。小鵬汽車(Xpeng)社も約27,000台を販売し、直近では自動運転機能「ナビゲーションガイドパイロット(NGP)」システムを実装していくことを発表し、テスラ社やNIO社の自動運転機能システムに追従します。 また2020年コロナ禍で米中対立の悪化も懸念されたなかで、前述の理想汽车や小鹏汽车が米国でIPOに成功しました。すでに一足早く米国でIPOを行った蔚来(NIO)社を含めた三社が現在中国EVメーカーで主要な勢力として捉えられています。その他、バイドゥ社、テンセント社も出資する威马 (WM Motor)社や恒大集団系の恒大汽車など、さらなる新勢力の存在感も高まっています。
現在、中国の自動車市場は合資、地場、外資が入り乱れていますが、生き残りをかけての競争が加速しています。勝ち残るための一つのキーとなるのが、現在進行形で発展しているスマートシティーとどれだけシンクロさせることができるかにあります。EVは単なる電池を使った車ではなく、電動化という枠組みで他の電気制御システムと統合してくことで、センサー等を駆使したモビリティー化が推進され、利便性が高まっていくことが考えられます。中国でプレゼンスの高いEVメーカーが自動運転にも力を入れているのは偶然ではありません。 2020年は新型コロナウイルスにより様々な産業が大きな影響を受けました。特に年初の中国NEV市場は2019年7月頃から顕著になった補助金削減による失速傾向にさらに拍車がかかった格好になりました。しかしながら、中国政府は経済再生に向けて各種の支援策を打ち出し、NEV(新エネルギー車)市場においても2020年7月の販売台数は前年同期比でプラス成長となり、長かった失速傾向を断ち切ったことを皮切りに、2020年の新エネルギー車の売上台数は結果として前年度比でプラスの成長となったことが分かっています。 NEV市場をここまでの状態に持ってくるのに多くの支援策が打ち出されました。例えばロックダウン解除された武漢市では地元の自動車メーカーから電気自動車を購入すると1万元(約$1,400)を補助する意向をショートメッセージで市民に伝えたと報じられもしました。未曽有の出来事で失速した経済がこれだけのスピードで回復するのは自助努力だけでは困難であり、こうした支援策があったからと言えます。また同時に中国EV産業はまだ補助金に依存している部分が大きいことが改めて浮き彫りになったとも言えます。 (E车汇, 2019) またNEVに対するリコールを含めた品質の問題も昨今、中国でクローズアップされるようになっています。工信部では2020年にNEVの検査工程等を対象とした監査を行っており、品質のパロメーターに一貫性がないことを問題視するとともに関連企業の意識向上を促しています。こうした観点から捉えると、NEVは品質についても課題が残されており、改善しなければなりません。また車載バッテリーのリサイクルについても、直近の事故としてリサイクル事業を手掛けるCATL社傘下の湖南邦普循環科技(湖南省長沙市)の工場で爆発が発生しています。 多くの課題がまだ存在するNEV市場ですが、逆に言うとこうした環境で質の高い製品、サービスを含めたビジネスモデルを提供できる企業にチャンスがあると言えます。EVシフトと数年前に叫ばれましたが、実際にEVもメインストリームになるにはまだ時間がかかります。製品ライフサイクルで言えばまだ導入期にいるようなもので、この時期は技術開発や広告などに多額の投資をしなければならず、企業にとってはいかに資金調達をしていくかも重要なテーマとなります。 References (イメージ図引用) E车汇. (2019). 全年销量十分之一的新能源车被召回,快看看你的车在列吗?
弊社が執筆した書籍「中国における車載リチウムイオン電池のリユース・リサイクル動向と市場展望」がサイエンス&テクノロジー社から発行されます。中国車載バッテリートレンドからリユース・リサイクルスキーム、トレーサビィティを支えるデジタルプラットフォーム、SDGs等の観点で「今」に切り込んだ内容になっています。 ☟出版社殿ホームページ https://www.science-t.com/ebook/EB035.html 弊社の活動は徐々に認知されるようになってきており、多くの執筆依頼や海外メディアからの問い合わせもきております。弊社では市場調査業界での豊富な経験の他、製造業界で様々なプロジェクトの開発および新製品の上市経験があり、商品化から新たな開発まで、アナリスト、コンサルタントの枠を超えて活動しています。弊社は企業体として利益は追及いたしますが、根本であるミッションからぶれることはいたしません。今後も応援して頂けると幸いです。 SVOLT社は、ドイツのザールラント州にヨーロッパの生産拠点を設立することを最終決定しました。最終拡張フェーズで24GWhの生産能力を備えた最先端工場がザールラント州の2か所に建設されると報じられています。24 GWhは、年間30万から50万台の電気自動車のバッテリーに相当し、最大20億ユーロの総投資が計画されています。SVOLTは、ザールラント州で最大2,000人の雇用を創出したいと考えています。 2つの新しい生産拠点は、主にバッテリーセル、モジュール、および高電圧ストレージシステム(パック)を製造します。 (SVOLT, 2020) 中国では2035年までに全ての自動車を環境対応車にする方針を固めており、英政府も17日、 ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止すると発表、EV化への追い風となると考えられます。一方、EV普及に伴って今後の使用済みLiBの大量発生量が懸念されています。中国メディアによると2025年には35万トンまで増えるとの予想もされています。LiBの廃棄処理は安全性も含め環境負荷が大きく、また希少金属を含むため経済的な回収・リユース・リサイクル工程の構築が望まれます。 2020年12月21日にサイエンス&テクノロジー社から発行される弊社執筆書籍「中国における車載リチウムイオン電池のリユース・リサイクル動向と市場展望」では、こうした問題に対する中国政府の政策検討・実施の状況や、EV・バッテリー・電池材料メーカ、通信/エネルギー関連・リサイクル業者等の中国企業の取り組みをまとめています。 書籍のご案内ページ☟ https://www.science-t.com/ebook/EB035.html References SVOLT. (2020, November 17). SVOLT Energy Technology Europe. Retrieved November 18, 2020, from https://svolt-eu.com/en/home-en/
2020年12月21日に沖為工作室合同会社が執筆した書籍「中国における車載リチウムイオン電池のリユース・リサイクル動向と市場展望」がサイエンス&テクノロジー社から発行されます。EVの世界最大市場となった中国。2020年10月下旬にも、従来型のガソリン車等の製造・販売を2035年を目途に停止するというインパクトある政策方針を発表しました。一部アナリストの予想では、2025年にNEVのシェアが全体の25%に達するという意見も出てきています。一方、EVの普及に伴って今後の使用済みLiBの大量発生量が懸念されています。中国メディアによると2025年には35万トンまで増えるとの予想もされています。LiBの廃棄処理は安全性も含め環境負荷が大きく、また希少金属を含むため経済的な回収・リユース・リサイクル工程の構築が望まれます。本書では、こうした問題に対する中国政府の政策検討・実施の状況や、EV・バッテリー・電池材料メーカ、通信/エネルギー関連・リサイクル業者等の中国企業の取り組みをまとめています。 目次
Chapter 1 EV推進政策とコロナ禍を経た中国自動車市況の現状とNEV用バッテリートレンド 1. EV販売台数の現状:コロナ禍の影響 2. 2020年のEV購入補助金削減 3. ガソリン車販売台数の現状 4. EV普及再燃のキーを握るテスラ社の取り組み 4.1 ミリオンマイルバッテリーの開発 4.2 蓄電システムの開発 5. 米国市場でIPOをする中国新興EVメーカー 6. 中国NEVバッテリートレンド 6.1 Svolt社 6.2 CATL社 Chapter 2 車載リチウムイオン電池リサイクルの現状と関連企業動向 1. 車載LiBリサイクルスキーム構築の必要性とその背景 2. リサイクル工程フローの概要 2.1 乾式回収 2.2 湿式回収 2.3 ダイレクトリサイクル 3. バッテリー回収の問題 4. 車載LiBリサイクルスキーム構築や法規制、標準化制度に関わる政策検討 5. 自動車・電池・材料メーカの車載LiBリサイクルへの対応 5.1 テスラ社 5.2 上海汽車社/CATL社 5.3 格林美(GEM)社 5.4 中南大学 Chapter 3 車載リチウムイオン電池リユースのビジネスモデル構築に向けた動き 1. テスラ社のリユースに対する姿勢 2. 国家电网(State Grid)社の取り組み 3. 中国鉄塔社の取り組み Chapter 4 車載リチウムイオン電池のリユース・リサイクル市場展望 1. 今後発生する廃棄車載LiBの時期・数量予測 2. リユース、リサイクル市場の展望 3. 注目されるBaaS 4. キーとなるプラットフォームの精度 5. 競争環境分析(各企業の動向) おわりに ※編集中のため、一部目次が変更となる場合がございます。予めご了承ください。 沖為工作室合同会社は10月14日、サイエンス&テクノロジー社主催「車載用リチウムイオン電池のリサイクル技術動向と産業各社の取り組み事例」セミナーにて、中国における車載バッテリーのリサイクル、リユース最新動向について講演を行いました。 セミナーでは、中国における車載バッテリーのおけるリサイクル、リユースの考え方や事例、ビジネスチャンス、持続可能社会実現に向けた当社からの視点も踏まえ、発表を行いました。 車載バッテリーのリサイクル、リユースは環境改善という側面だけでなく、参加者が決められたルールに沿って行動しないと成立しません。こうした意味で「公平に誰も取り残さない」というSDGsの理念とも密接に関りがあります。(なお当セミナーの発表内容も含めた書籍が12月に発行される予定です。) セミナー当日は著名な方々のご講演とご一緒させて頂き、恐縮かつ光栄であるとともに、コロナ禍に関わらず、ご参加賜った多数のご聴講者様に、改めて深謝申し上げます。
中国工信部は新エネルギー車動力蓄電池二次利用管理法(請求意見)を発行しました。NEVでは役目を終えたバッテリーをカスケード利用するために、基地局やエネルギー貯蔵、充電などのアプリケーション開発が推奨され、回収が容易でないアプリケーションは避けるように記載があります。また2020年1月に出された「新エネルギー車廃旧動力蓄電池総合利用企業規範条件及び公告管理暫定措置法」でも強調されていましたが、効果的な情報トレーサビリティ機能の構築についても述べられています。 (工信部, 2020) 2020年12月発行予定の書籍では関連政策や車載バッテリーリサイクル、リユースの中国市場トレンドを扱う予定です。詳細はまた別途ご報告いたします。 References 工业和信息化部. (2020). 新エネルギー車動力蓄電池二次利用管理法
2020年9月29日、山東省萊蕪(らいぶ)で、全省初となるグリッドからのリユースバッテリーを使用した独立型エネルギー貯蔵パワーステーションが建設され、挙行式が行われました。山東省のエネルギー産業構造は従来石炭に偏っていましたが、今後はグリーンエネルギーに注力し、地域環境の改善を図ります。 State Grid (国家电网)は、現地のハイテク企業と協業し、复合谐振脉冲触发稀土纳米碳技術(複合共振パルスをトリガーとする希土類ナノカーボンリカバリー技術)を援用し、回収したリチウムイオン電池のカスケード利用を促進。当技術により、回収した電池の寿命が回復します。 (人民网, 2020) 当エネルギー貯蔵パワーステーションの規模は1.6MW / 3.2 MWhとなり、約600戸の地域住民に対し、1日分の電力の供給ができると考えられています。 リユースバッテリーの使用により、エネルギー貯蔵発電所の建設コストが大幅に削減されるとともに、資源や環境の保護にもつながるメリットがあります。 References 人民网. (2020). 循环利用!国内首个电网退运电池储能站投运
以前お伝えした通り、中国EVバッテリーメーカーSVOLT社が2021年に長城汽車のモデルにコバルトフリーバッテリーを供給すると考えられていましたが、直近で同社CEOが供給について具体的に言及したことが報じられています。SVOLT社は現在ヨーロッパに工場を建てる計画も進めており、候補地の絞り込みを行っています。また中国東部の无锡に新しい研究センターも開設するプランと2022年に中国STAR市場への上場についても意欲的なことが明らかになっています。 (SVOLT, 2020) 北京で開催されていたAuto China 2020でもコバルトフリーバッテリーについてのプレゼンが行われました。同社のコバルトフリーバッテリーはHプラットフォームとEプラットフォームの二つのタイプがあり、Hプラットフォームの226Ahバッテリーは、ハイエンドモデルに搭載される予定です。 同社第3世代高速ラミネーションプロセスを使用した226Ahバッテリーは、235wh / kgのエネルギー容量と、3,000サイクルを超える寿命を備えているとされます。マトリックスPACK設計により、800kmを超えるレンジを実現できる見込みです。 Eプラットフォームのコバルトフリーのバッテリー容量も増量の計画が立てられています。 (SVOLT, 2020) References SVOLT. (2020). “无钴芯生·启未来”的无钴电池
9月22日にテスラ社は待望のBattery Day(バッテリー・デイ)と名付けたイベントを開催し、株主や市場に向けて開発中のバッテリー技術についてプレゼンを行いました。現在、弊社が執筆準備中の書籍でも触れる予定ですが、当イベントのハイライトとしては、電池の構造設計を変更することで、パフォーマンスを向上させることが挙げられます。新しいバッテリーではタブレス構造で46×80mmの寸法となり、トータル航続距離も16%上昇するとしています。 (Tesla, 2020) また従来はウェットプロセスで電解質を塗布していましたが、ドライ方式に置き換えます。負極材についてはシリコンをメインに据える戦略が発表されました。正極材についてはコバルトを他に置き換えつつ、求められる航続距離に応じて配合を変えるコンセプトがマスクCEOから語られています。 References Tesla. (2020). Tesla Battery Day
|
Author沖為工作室合同会社 Categories
All
Archives
April 2024
|