マイクロバイオーム治療薬市場は、再発性 C. difficile 感染症 (Recurrent C. difficile)向けでSeres Therapeuticsの「SER-109」とRebiotixの「RBX-2660」が米国FDAの承認を受け、2023年に商業化に成功しました。またオーストラリアでは2022年にBiomeBankが開発した「BIOMICTRA」が同国薬品・医薬品行政局より、再発性 C. difficile 感染症向けのマイクロバイオーム医薬品として承認を取得しています。さらにイタリア Proge Farm のSoftigyn(有効成分:live Lactobacillus plantarum P17630)は、2022年に膣内細菌叢を回復し維持するための医薬品として、スイスで販売承認を取得しています。ドイツ、スペイン等のヨーロッパにおいては、膣内細菌叢を回復し維持するためのプロバイオティクスを医薬品として再分類する動きが出ており、マイクロバイオーム治療薬に対する注目が高まっています。 一方、マイクロバイオーム治療薬は対象疾患によって進捗具合の異なりが見え始めており、例えばAstraZenecaは癌向けでSeres Therapeuticsと行ってきた共同研究を2021年に解消させました。また、2022年には武田薬品がFinch Therapeuticsとの提携を解除しています。またクローン病向けで開発していたSibofimlocを武田薬品は戦略的製品ポートフォリオから外しています。 (各社の発表情報等を沖為工作室にて編集・作成) このように対象疾患によってはマイクロバイオーム治療薬による有効なデータが取れず、商業化が遅れる可能性も出ています。一方、研究の対象は特定菌株から複数菌株のコンソーシアムに移行しつつあります。 こうした環境の中、統合オミクス解析ベースのプロジェクトが行われていますが、個人間の腸内細菌叢の違いが、疾患の発現に関連している可能性が認められる一方で、明確なバイオマーカーの同定にはいたっていません。また統合オミクス解析は相関係数やアルゴリズムにも依存しており、まだ十分なデータが蓄積されておらず、精度にも課題があります。それでも解析はより難しい領域にシフトしつつあります。 従来、16S 解析やメタショットガン解析、シングルセルアプローチ等、細菌の分析アプローチがある中で、さらに組織中の形態学的位置情報をリンクさせる空間トランスクリプトーム解析も近年、注目されています(但し流動的に存在する細菌叢を空間的に把握する技術はまだ発展途上の段階)。 Source:沖為工作室 マイクロバイオーム治療薬の開発は極度な難しさがある一方、人の健康に対する意識の高まりや、コンピューティング技術のさらなる発展により、新たな発見を得られる可能性があるため、今後もこの分野への投資は拡大していくことが想定されます。 またマイクロバイオームは治療薬や食品の他、スキンケアや農畜水産業でも用いられています。さらにカーボンニュートラルがトレンドになる中で再生可能エネルギーとバクテリアを応用し、合成ガスを有用物質に変換するプロジェクトがグローバル規模で展開されています。 微生物の生態はまだ明確には解明されていませんが、微生物が人の身体と密接に関わっており、独自の機能を持っていることは自明であり、微生物は今後も人類の主要な研究テーマの一つであり続けます。 ■関連調査レポート
マイクロバイオームマーケットトレンド-2023版 www.chong-wei.com/microbiome_market_trend.html またマイクロバイオームに関連したセミナーで2月20日(火)に講演を行う予定です。 マイクロバイオームの市場・技術トレンドから各アプリケーション展開まで<Zoomによるオンラインセミナー・見逃し配信あり> 詳細は下記主催者殿リンクをご参照下さい。 johokiko.co.jp/seminar_chemical/AD240211.php コメントの受け付けは終了しました。
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